慶事 再び

四月の半ば、金沢からOG会の面々が甲府に訪ねて来ることになっている。かつては月に一度は会食していた連中と、年に一、二度会うか会わないかになってしまい、なんとも所在なくアンプばかり作っていたが、初の集団による甲府来襲となった。どうやってもてなすか、今から楽しみだ。

が、そのメンバーの一人、M夫人から『急遽不参加』というメールが来た。理由は、大慶事だ。

「『おじいちゃん、お小遣いちょうだい』って言わせます」

目出度いから何でも可。特段の慈悲により赦して取らす。

本日の報告

各地で被害が出ているようですが、喜多方も夜通し吹雪いていました。夜半の暴風で細い柱が悲鳴を上げると、正直怖いと感じます。母の寝室は最も新しい増築部分(といっても軽く15年は過ぎていますが)で柱も多いから、家が倒壊しても多分大丈夫ですが、私の居室はもっとも弱い部分の上にありますから、もしもの時は絶対ダメです。

朝は6時頃から母と空模様を睨んでいました。目的地までのルートは、『強風の通り道になる急峻な山道』『風を遮るものは何一つない桧原湖畔』『磐梯山北麓』という、日露戦争前夜でも行きたくない白い地獄。風も雪も弱まる気配はありまぜん。しかも拙宅の車はセダン。私のRVでも持ってきてあれば何とかなったかも知れませんが・・・。

母としては法事に行ってほしかったようですが、ここで命を賭けてしまっては、計画中のアンプを完成させられないし(?!)、とにかく危険過ぎるという理由で、欠席することを先方に伝えました(後刻、四分の一の客が来られなかったと聞きました)。

強風で吹き飛ばされたらしく、新たな積雪はせいぜい30センチ程度ですが、もはや雪かきをする気力もなく、やはり雪のせいで、異様に猫密度が高くなった居間で、静かな日曜を過ごした次第です。

明日の夜、甲府に帰ります。

当面の心配事

今回の帰省の主因について、当分の間、警戒レベルを「重大な懸念」から「日常的な心配」に引き下げ、25日に甲府に戻ります。御気遣い頂きました各位には、こころより御礼申し上げます。もっとも結果的に、今月、行われる予定だった治療が検査のためちょうど1ヶ月遅れ、来月改めて気を揉むことになりますが。

明日、母の代理で、裏磐梯まで法事に出かけます。場所は「裏磐梯」と呼ばれる磐梯山より北の地域の中で、実家のある喜多方から一番遠いところで、いま、外は猛烈な吹雪です。法事といっても、本体の仏事には列席しません。仏事の会場がある集落に続く道は2本。そのうち1本は年明けから閉鎖され、残る1本の、幅員が狭くセンターラインを引くことができない葛折りの山道は、大量の積雪で、そこを越えていくことが文字どおり命がけの状態なのです。

この天候が続くと、明日の裏磐梯行は、間違いなく今年最大のアドヴェンチャーになります。つい先日体験した、高速道路上のホワイトアウトを越えることは確実です。

無事に戻れたら、様子をリポートします。

重ね重ねオーディオ機器を作る

・『無辜の不処罰』は近代刑事訴訟の鉄則。時に下っ端がこれを忘れて大問題を起こすが、法相が「知ってんの?」と思われるようでは問題外。

・可処分所得が増えず、税は上がり、燃料も小麦も暴騰するとなると、今年は春が来るのか本気で不安になる。このご時勢でも「景気は拡大し続けている」などと空念仏を唱えるだけなら、上から見ると『円』に見えるという皮肉な建物の主なんか、国会の同意人事にしなくてもいい。

・臨時の帰省も早や10日。二月にこんなに長く会津にいるのは、おそらく修士2年のころ、当時の猫が重い病気になり看病に呼び戻されて以来。数日前までは多分雪だった、軒下に積もる氷の塊を掻き出すのに、つるはしを振るう。箸と六法より重いものは持たない主義なのに・・・。

憧れの送信管アンプ(その5)

憧れのアンプに取り組み、興奮で眠れないかと思ったが、疲れのほうが予想以上で、翌日はゆっくりと起床。今回の作業場に設定したリビングに移動すると、テーブルの上はもちろん、カーペットの上もいろいろなものが飛び散り、文字通りの惨状を呈している。BGMを流し、コーヒーを淹れ、新聞を開いて見出しを追うがほとんど頭に入らない。目の前には、作りかけの大型アンプが仰向けに置かれているのだから、このアンプ以外のことを考えろというほうが無理。マニュアルを開き今日の作業の手順を確認する。

脳みそと筋肉が動き出すのを待ちきれず、はんだごてに火を入れ、楽しさと不安とを半々に抱えながら、最初の手順にかかる。天板を下にして組み込んでいくわけで、アース、ヒーター、整流回路からB電源、信号系と、組み付けた大型部品の端子、ラグをワイヤーでつないでいく。イメージとしては、基盤のパターンをワイヤーで作っていく感じ。だが、ひとつのラグの穴にいくつも部品やワイヤーが入る箇所もあり、後に来るパーツを考えながら、場合によっては爪楊枝で穴を確保しながら半田を盛っていく。面倒な作業が続くが、実に楽しい。

ワイヤーによる配線が終わった時点で、いったん作業を止めて間違い探し。すべての配線を回路図と実体図と照合する。ミスは見つからず、CR類のはんだ付けに進む。手順では電源系から組んでいく。倍電圧整流のためのダイオードは、内蔵するブロックコンデンサの端子とラグで取り付ける。かなりの電流が流れ発熱が予想される大型のホーロー抵抗をつなぎ、チョークコイルとコンデンサ、ブリーダ抵抗などをはんだ付けしていく。1000Vを安定して供給する電源部は大き目の部品が多く、必然的に高密度実装となる。技術も経験もない身には大変に難しい。レイアウト上は電源部に近いシャーシ奥に、4本のセメント抵抗を付ける。出力管の845、または211のバイアスを決める重要な抵抗だが、これも非常に熱を出す。また、二種類の真空管を挿し換える時には、ここの抵抗をスイッチで切り替えてバイアスを変える。
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重ねてオーディオ機器を作る

・会津は(全国的に?)、立春から10日ほどが一番寒い。今日は寒の続きの中休み、といった感じでぬるい一日だったが、明日朝はまた氷点下10度に迫る勢いで冷え込むらしい。あまりの寒さで外に出られない猫たちは必然的に一番暖かい居間に集まってしまい、猫密度が高すぎると無用な小競り合いが起こるか、思いもかけないところで駆けっこが始まったりする。次にまた、母を乗せて遠方の病院に出かけるまで数日間は、この調子で過ごすととになる。

・実家には2セットのPCとネット環境、アナログ主体のオーディオ環境があるから、本さえ持ち込めば勉強するには困らない。父が使っていた金属用を中心とする多量の工具もあるから、もうちょっとの細工でアンプ製作環境も整えられるかも。


憧れの送信管アンプ(その4)

12月7日、校務のために出校し、早く帰るつもりが結局一日仕事になった。そして帰宅後、簡単な夕食を済ますと、待ちに待ったSV-2に着手した。まずは興奮を抑えて梱包を開く。一度出したら二度と戻せないと思えるくらい、見事に詰められた部品の数々。どうせ戻すことはないから、遠慮なく取り出させてもらおう。

一番上にある頑丈な箱は、標準仕様の直熱三極管845。これまで触ったこともない大きな真空管だ

。このセットでは、片チャンネルに3本の真空管を使う。初段に高μ双三極管12AX7、ドライブ段には人気の高いビーム出力管KT88。そして出力段に845を使う。大きさの比較に一枚。組み立ての間、バックで音楽を再生するTU-879S with KT88は、12AX7とKT88で構成されているから、普段使いのアンプの後ろに巨大な845を乗せることになる。

回路図は、暗記するくらい読み込んだ。信号系はシンプルな三段増幅で、部分帰還とオールオーバー帰還がかかるが、部品点数は決して多くない。だが、プレートに1000Vをかける845を安定的に動作させるため、電源部は手が込んでおり、部品も多い。次から次へと出てくる、きれいに袋詰めされた部品を見ていると、完成させられるかどうか、正直、不安になってくる。

事前に頂戴していたマニュアルを熟読していたから、すべての手順は頭に入っていたが、改めて添付のマニュアルを読み直し、合理的に構成された手順をひとつずつ辿っていく。手配線アンプの組み立て手順は、シャーシにねじ止めする部品の組み付け、配線、部品のはんだ付け、と進むが、ねじ止めの前に線材を付けておかないと、こてが届かなくなる箇所がある。SV-2の場合、シャーシはフレームと天板、底板に別れ、フレームにスイッチ類、VR、ソケット、ヒューズなどが付く。前面のスイッチ、VRは、取り付け前に所定の長さのテフロン線やシールド船をはんだ付けしておかないと、先に進めない。背面側にはソケットのほか、845の直流点火用に大きなブリッジダイオードが2つ付く。細かいはんだ付け箇所は、丁寧にテスターでチェックしながら進む。

天板に真空管ソケット、ブロックコンデンサ、そして非常に重たいトランス類(チョーク×2、出力×2、電源1)を固定し、裏には部品の中継ポストとして使うラグ版、コンデンサ、ハムバランサなど、マニュアルと照合しながら所定の位置に取り付け、フレームに固定する。

作業開始から数時間がたち、大分疲れを感じ始めた。日付も変わるころ、初日の作業の最後に、抵抗をすべて測定し、大きさごとに発泡スチロールに刺しておくことにした。こうしておけば、はんだ付けの際、効率よく進む。ところが、計測が終わるころ、小さなトラブルに気が付いた。ドライブ段、KT88のバイアス抵抗に使う2kΩが1本しかないのだ。ステレオだから当然、2本必要なのだが、どこを探しても出てこない。すべての抵抗を計測し、1kΩが1本残った。どうやらキット屋さんの手違いのようだ。自分のパーツ箱を探してみるが、200Ωや20kΩはあるが、2kΩはなぜか持っていない。甲府にはパーツショップはないし、翌朝、秋葉原に出向くのも効率が悪すぎる。キット屋さんに連絡すれば、最速で送ってくれるだろうが、一日作業ができなければ、週末に完成させることができなくなる。集中力が切れないうちに、一気に完成させないと、失敗するような気がしてならない。

結局、パーツ箱にあった1kΩと間違って入っていた1kΩを直列につなぎ、熱収縮チューブで包んで他の部品と接触しないような細工を施し、2kΩの抵抗を用意した。

ここまで進めたところで、目が悲鳴を上げ始めた。初日の作業はここまでにし、一眠りすることにしよう。疲れていても興奮は続いているから、寝付けるかどうかはわからないが。

なおなおオーディオ機器を作る

・一日がかりの検査行から一夜明け、母親はそれなりの日常生活に。
二人で「農薬餃子」が出てしまったスーパーに行くと、母の顔を見て店長が飛び出してくる。見舞いの言葉に続いて、店の苦しい現状を聞く。『町の名前に泥を塗った』とまで言われているとか。今回の騒動、末端の小売店に責任はない。弱い立場の、絶対に反論できない相手を罵るためだけに電話をかけてくる、絵に書いたようにさもしい奴こそ、町の名前に泥を塗っていると知れ。

そして、文化的、制度的、社会的に「安全」を保障し得ない国から、リスク満載の商品を輸入してボロ儲けしている商社は、問答無用で国賊だ。鈴木商店の故事を学ぶがいい。

食料自給率4割未満の恐ろしさを、そろそろ全国民で共有したほうがいい。水も安全も、もはやタダではない。

・G7財務相会談。予想(予定?)通り無策を満天下に示して閉会。月曜日の失望売りはどれくらいの下落幅に?。


憧れの送信管アンプ(その3)

TU-879Sを作って、真空管アンプの面白さのとりこになり、「作ってみたいアンプ」にあれこれ思いをめぐらすようになった。より深く「作る」ため、知識がほしくなり、

情熱の真空管アンプ

情熱の真空管アンプ

日本実業出版社

例えばこの本を熟読した。本を読んで勉強するのは、長年の経験があるからなんとかなる。ただ、知識を実践するのは容易ではないから、その知識が身についたかどうか自信が持てない。まぁ、法制史の勉強と比べれば、実践の可能性があるだけアンプの方が楽だが・・。

キット屋さんの商品で、211の挿し換えができるキットは、SV-2(2003)という。このショップのフラグシップモデルで、UV845という211と同型の大型真空管を前提に設計されている。プリント基板を用いないオール手配線の「漢の増幅器」だ。すでに2007バージョンがリリースされているが、こちらは挿し換えが出来ず、プリント基板を用い、しかも、かなりの部分が組立て済みで提供される。回路構成などには魅力を感じるが、作りたいとは思わない。手配線ができれば基盤を使ったキットは絶対に作れる。しかし逆は真ではない。私は、手配線の技量を高めて、「真空管アンプ作りが『得意』」といえるくらいになりたいと思った。MT管2本の小さな二号機を完成させたくらいの技量では、どう考えてもSV-2はハードルが高すぎる。
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臨時の帰省

大寒小寒の会津に戻りました。明日朝から断続的に、母親を連れて100kほど離れた病院に通います。田舎では重い病気になると確実に助かりません。まともな医療を受けようと思ったら、最低でも政令指定都市に住む必要がありそうです。

株の暴落くらい痛くも痒くもない閣僚がいる内閣に経済政策を期待するだけ野暮、公的福祉に頼るつもりのない官僚が作った福祉プログラムに期待するのは浅葱裏だけ、ということでしょうか。

それにしても、このままでは当家は滅亡してしまいます。どなたか、保護の手を・・・。せめて朱鷺の万分の一でいいですから。

2月最終週まで雪と氷の会津にいる予定です。

なおオーディオ機器を作る

  • 新たに農薬餃子が見つかった喜多方市のスーパーは、実家の近くで母親が年中利用している。まさか冷凍餃子なんか喰わないとは思うが、明日朝また電話してみるか。
  • 今年もまた「サラ川」の季節がやってきた。ちょっと長く続きすぎで、ややマンネリの香りもするが、こちらの二番煎じほどあざとくもないし、薄味のペーソスもまぁいいか。来年は自分も投稿してみようかと思ったり思わなかったり。


  • 憧れの送信管アンプ(その2)

    小学校の終わりから中学校にかけて愛読した雑誌『初歩のラジオ』。製作記事をまねようとしても、例えば2SB56なんて型番のゲルマニウムトランジスタ1石で発振器を作ったりするのが関の山で、それも部品が揃わず、高音で「りーん」となるはずが、低音で「ぐもももも〜」と訳のわからない音が出たりする。当時喜多方には一軒だけパーツを扱う店があったが、雑誌で見る秋葉価格の3倍から5倍の値段で、ほんの僅かな種類があるだけだった。だから通販という便利な方法を知らない子供には、絶対にパーツを揃えることはできなかった。それでも、電子工作は面白く、見たことも聞いたこともない真空管や、パワートランジスタを並べた『HiFIオーディオアンプ』の製作記事は、おとぎ話のように楽しかった。

    その頃、父にねだって買ってもらった「電子ブロック」という、お勉強になるおもちゃがあった。実家の改築の際、処分されてしまったが、先年復刻版が出た。当然のように購入し、いまも突然、ラジオになって天気予報を流したりしている。

    閑話休題。

    『初ラ』に載った真空管アンプの製作記事は、毎号欠かさず、意味も分からないくせに繰り返し読みふけった。子供には手も足も出ないハイレベルな世界だったからこそ、強く惹かれていた。「シングル」や「プッシュプル」(ともに増幅形式)くらいはようやくわかる程度の子供の目に、宝物のように写ったのが「UV211」(UVはピンの形式。211が型番)という真空管だった。荒い白黒の印刷で見る写真からも、その威容が伝わってくる。多くの製作記事で使われる一般的な真空管の、およそ倍ほどの大きさ。プレート(内部の電極の一つ)には、なんと1000Vもかけるというモンスター真空管。本来は、放送局などの送信機用に開発された大型真空管で、オーディオに転用してみたところ、予想外にも良い音質が得られた。しかも需要は決して多くないから、大きな球は安価で流通した(今は需要は消滅寸前だが、価格は天を衝く勢い)。211を使った製作記事は、何ヶ月かおきに必ず現れ、「危険な高圧電流」と「輝くような音質」という決まり文句が躍った。

    いまから思うと、『初ラ』で読んだ記事の中で、真空管の型番を覚えているのはKT88と211だけだ。KT88はオーディオ球として非常に人気があり、作例も多かったのだろう。その他多くの真空管、たとえば6V6などは、命名の規則を知らないから番号を覚えきれず、結局印象に残らなかった。ところが211という数字だけのこの真空管は忘れられなかった。それほどインパクトの強いこの211で、いつかアンプを作りたい。そう思って、思っていたことすら忘れるくらいの長い時が流れた。

    KT88のアンプを手にした時、憧れが現実になるかもしれない、という思いが沸き上がった。だが、回路図もなく、211が手に入るのかどうかすら分からず、知識も技術も経験も、何一つない、ただ漠然とした憧れだけが強くなっていく、そんな日々が続いた去年の夏、キット屋という真空管アンプキットの最大手のサイトを見ていて、30種に及ぶラインナップのなかで一種類だけ、『211挿し換え可能』という設計がなされていることを知った。憧れが始めて形を持った瞬間だった。

    も一つオーディオ機器を作る

    『農薬餃子』のニュースを見るたび、自慢の手作り餃子を作らなくなって久しい、と感慨に浸っている。メタミドホスとは何物だ?。パラ○○○なら会津の実家にも一瓶転がっていたが・・・(←おいっ!)

    木曜から、しばらく、その会津に戻る予定。あまり楽しくない帰省になる。

    憧れの送信管アンプ(その1)

    ネットでアンプのパーツを購入するようになった。これまでネット通販といえば、本かCD、DVD、PCのソフトくらいだったが、オークションを覗いてみると、なかなか楽しいパーツも売りに出ている。

    リビングの主要増幅器として頑張るTU-879S with KT88の初段に使う、12AX7という真空管がある。秋葉で国産の中古を買って、キットについてきた現行のロシア球と交換してみたところ、音の厚みが増したような感じだが、高音域が荒れることがある。状態の良くない球だったか。で、代わりの球を探していたら、ネットで旧東ドイツ製の同等管を入手できた。しかも1,000円未満で。早速差し替え、しばらく鳴らしてみると、高域の荒れもなく、中低音の厚みが出てきた。理想的だ。この球を扱っている方とメールでやり取りしているうちに、大変に高性能な旧ソ連製真空管を譲ってもらえることになった。

    オーディオアンプに使う真空管は数々ある。私が使っているKT88はビーム管(傍熱管)といい、大出力が狙える高性能管だ。二号機に使っているのは6BM8という、本来はテレビ用の傍熱複合管。小さな管からは想像できない豊かな音が出る。こうした球が出てくる以前からオーディオの世界で重用された真空管が、2A3と300Bという直熱三極管だ。前者はRCA、後者はWesternElectricが開発し、電蓄から高級アンプにまで幅広く使われた。両者とも、開発元は真空管製造から手を引いてしまい(西側先進国の電機メーカーは、もうどこも真空管を作っていない)、現在はロシア、中国で同一規格の製品が作られているが、わずかに市場に出まわる本家の製品とは似て非なるものらしい。それに本家の未使用品になると、投機の対象になっているのか、本家WE300Bが中国製の20倍以上という、異様な価格で取引されることも。とても手が出ない。

    ロシア製でもいいから、2A3か300Bのシングルアンプを手配線で作ってみたい、と考えるようになった。プリント基板ではない、手配線というやり方は、かなり古典的で、基板が使えるならその方が絶対に完成度が高い。だが、回路の知識が乏しい文系の私には、プリント基板は何枚作っても、何も分からない。所定の位置に部品をハンダ付けすることは楽しいが、「いま付けた抵抗の働きは」と問われたら、多分分からない。手配線だと、どの部品がどの部品と繋がるか、回路図を見ながら作業することになり(キットなら有り難い実体配線図もあるが)、何台か作れば、自然と回路の中身が見えてくる。それに手配線だと、いかにも骨太な「漢の増幅器」って感じがして好ましい。

    キット屋さんで、2A3も300Bも、手配線のキットを出しているから、どちらかを作って手配線のスキルを高めよう、そう考えていたとき、上述の高性能真空管の話を伺った。球は6B4Gといい、2A3のフィラメント電圧(2.5V)を真空管としては標準的な6.3Vにした互換球だ。ソケットのタイプ(2A3は4ピン、6B4Gは8ピン)とフィラメント電圧を変えることができれば、差し替えて使える、ということ。

    ロシア球屋のFさんの扱う真空管は、高性能で低価格という、このご時世に夢みたいな商品ばかり。6B4Gと前段に使う候補球二種類、そして整流管をまとめて購入した。アメ球の数分の一程度の価格だった。Fさんによると旧ソ連では、アメリカ製と同規格、というよりむしろ上位互換製品を競って作っていたという。ケネディとフルシチョフのロケット開発競争と同じ軸線上にある話だ。しかも民生向けではなく(ソ連に民生なんて言葉はないか)軍用に作られた、極めて丈夫で性能のいい製品が、国家体制が変わって随分たった今ごろになっても、流れ出してくるらしいのだ。6B4Gに続いて、WE328A互換球、WE311A互換球も入ってくるということで、これも予約した。300Bの前段や、独立したプリアンプを作ったら楽しいに違いない。

    ところが、だ。ネットで6B4Gシングル用の適当な回路図もみつけ、パーツを集めにかかろうか、というところで、おなじみのキット屋さんの商品に関して、嬉しくない話を聞き込んだ。店主の大橋氏には、購入した商品について何度かメールで教えていただいたこともあり、早速、単刀直入に疑問点をぶつけてみた。

    大橋氏はすぐに返事を下さった。話は本当だった。キット屋さんのラインナップで私が一番作りたいと思っている商品が、早晩製造中止になる、というのだ。自分の今の技量では、その完全手配線のキットを作ることは難しい。だから手配線のスキルを上げるため、当初はキット、次に6B4Gで自作、という方針を立てた。ところが、スキルを上げた先の目標が消えてしまう。諦めるのか、それとも無謀な挑戦をするのか。迷う時間はあまり残されていなかった。

    まだまだオーディオ機器を作る

    (多分)今年二度目の雪のせいで、車の音も少なく、静かな日曜日になった。受験生諸君には試練の季節だが、冬の後には必ず春が来る。

    一昨日から半日ずつかけて作っていた機械が完成。目下テスト運用中。でも今日のエントリに出てくるのは別の機械(←おいッ!)


    昨年の12月初旬、一部の自作オーディオマニアが待ち望んだ、とあるキットが発売された。エレキットの真空管バッファ搭載CDプレーヤー・キットがそれだ。エレキットのシリーズではTU-875、TU-879Sを作り、作り易さと性能、価格のバランスを高く評価している。同社では過去三度、CDプレーヤーキットを発売しているが、今回は過去の実績を踏まえた集大成的な製品で、しかも限定品だという。「限定品」、なんと甘美な響きか・・・(正気に戻れ!>自分)。

    この一年、というか半年ほど、集中して物を買っている『キット屋』さんでも予約を受けてくれるというので、早速注文したのが11月。一月ほど待って、予定より数日遅れたが、商品が届いた。
    ざっとマニュアルを読んでみると、予想通り簡単至極。まだ校務のある週の半ばだったが、2時間半の予定で組み立てに挑むことに。

    作業は、ガラスエポキシ基板を切り離すことから始まる。これはエレキットのお約束。大きなメイン基板だけでなく、小さな破片のような基板もそれぞれ仕事をする。続けて部品のハンダ付け。最初に仕上げるのは、一番大きな基板。整流回路を含むバッファアンプは、この機械のいわばセールスポイント。増幅素子は真空管1本(双三極管という、1本に2本分の機器が入った真空管を使い、ステレオ構成になる)で、ソケットは裏側に着く。

    沢山のボタン類は、細長い基板に小さなスイッチを乗せていく。細かい部品の取付けや下準備には、相棒が大活躍する。一心に部品を取り付けていくと、次第に雑念が落ち、忘我の境地に入っていく・・・・。
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