2008.02.05 火曜日 22:25
なおオーディオ機器を作る
憧れの送信管アンプ(その2)
小学校の終わりから中学校にかけて愛読した雑誌『初歩のラジオ』。製作記事をまねようとしても、例えば2SB56なんて型番のゲルマニウムトランジスタ1石で発振器を作ったりするのが関の山で、それも部品が揃わず、高音で「りーん」となるはずが、低音で「ぐもももも〜」と訳のわからない音が出たりする。当時喜多方には一軒だけパーツを扱う店があったが、雑誌で見る秋葉価格の3倍から5倍の値段で、ほんの僅かな種類があるだけだった。だから通販という便利な方法を知らない子供には、絶対にパーツを揃えることはできなかった。それでも、電子工作は面白く、見たことも聞いたこともない真空管や、パワートランジスタを並べた『HiFIオーディオアンプ』の製作記事は、おとぎ話のように楽しかった。
その頃、父にねだって買ってもらった「電子ブロック」という、お勉強になるおもちゃがあった。実家の改築の際、処分されてしまったが、先年復刻版が出た。当然のように購入し、いまも突然、ラジオになって天気予報を流したりしている。
閑話休題。
『初ラ』に載った真空管アンプの製作記事は、毎号欠かさず、意味も分からないくせに繰り返し読みふけった。子供には手も足も出ないハイレベルな世界だったからこそ、強く惹かれていた。「シングル」や「プッシュプル」(ともに増幅形式)くらいはようやくわかる程度の子供の目に、宝物のように写ったのが「UV211」(UVはピンの形式。211が型番)という真空管だった。荒い白黒の印刷で見る写真からも、その威容が伝わってくる。多くの製作記事で使われる一般的な真空管の、およそ倍ほどの大きさ。プレート(内部の電極の一つ)には、なんと1000Vもかけるというモンスター真空管。本来は、放送局などの送信機用に開発された大型真空管で、オーディオに転用してみたところ、予想外にも良い音質が得られた。しかも需要は決して多くないから、大きな球は安価で流通した(今は需要は消滅寸前だが、価格は天を衝く勢い)。211を使った製作記事は、何ヶ月かおきに必ず現れ、「危険な高圧電流」と「輝くような音質」という決まり文句が躍った。
いまから思うと、『初ラ』で読んだ記事の中で、真空管の型番を覚えているのはKT88と211だけだ。KT88はオーディオ球として非常に人気があり、作例も多かったのだろう。その他多くの真空管、たとえば6V6などは、命名の規則を知らないから番号を覚えきれず、結局印象に残らなかった。ところが211という数字だけのこの真空管は忘れられなかった。それほどインパクトの強いこの211で、いつかアンプを作りたい。そう思って、思っていたことすら忘れるくらいの長い時が流れた。
KT88のアンプを手にした時、憧れが現実になるかもしれない、という思いが沸き上がった。だが、回路図もなく、211が手に入るのかどうかすら分からず、知識も技術も経験も、何一つない、ただ漠然とした憧れだけが強くなっていく、そんな日々が続いた去年の夏、キット屋という真空管アンプキットの最大手のサイトを見ていて、30種に及ぶラインナップのなかで一種類だけ、『211挿し換え可能』という設計がなされていることを知った。憧れが始めて形を持った瞬間だった。