「靖国」

少しだけ気力が回復してきた気がするので、後ればせながらこの話題を。

朝日新聞によると、広田弘毅元首相の遺族が、「靖国合祀に同意していない」と語ったという。東京裁判で死刑判決を受けたたった一人の文官で、他の被告人と違い、弁明を拒否して死を迎えた広田元首相の遺族であれば、当然といえば当然である。

そもそもA級戦犯は「何の罪」で裁かれたのか。どうして彼らがそこに立たされたのか、様々な問題が残されている。広田家の対応は、木村兵太郎陸軍大将の遺族とは正反対だが、太平洋戦争開戦時に(参謀本部ではなく)陸軍省首脳であった木村大将や武藤彰陸軍中将の遺族の無念も理解できる。

さて、軍人たちとは全く違う次元で戦争の時代を生きた政治家、広田については、

が、その人間像を余すところなく描ききっている。昨今の「靖国問題」に関心をお持ちの方は、終戦記念日前に是非ご一読を。また、木村、武藤に関する私の上記意見にご関心の向きは、

をどうぞ。

情報って何だ?

先ごろの道交法改正で、駐車違反を犯した運転者が反則金を納付しない場合、使用者に放置違反金の納付を命ずることができるようになった。

ところが、読売新聞によると、札幌市など一部の自治体が、警察からの照会に対し、守秘義務を楯にバイク(原動機付自転車)に関する所有者情報の開示を拒否し、ために違反金徴収が滞っているという。原付きに関する所有者情報は、登録地の自治体が保有する課税資料しかなく、このままでは、「札幌なら原付きは放置し放題」ということになる。

札幌市の対応は、個人情報保護法施行以後の「情報秘匿ラッシュ」と同一軸線上にあるものといえよう。開示したことによりどこからか文句をいわれるより、非開示にして殻に閉じ篭もった方が安全だ、という役人一流の防衛本能を垣間見る思いがする。更に、開示する手間より、「拒否」と一言伝える方が手間がかからない、という絶妙なコスト意識も。

こんな戯けた自治体の対応まで生んでしまったのだから、国はそろそろ、本気で「情報」についてコンセンサスを作る必要があろう。「守られるべきプライバシー」「保護と利用のバランスが肝要な個人情報」「公共の福祉に適う行政情報」が渾然一体となって、ある時は不当に秘匿され、ある時はセキュリティレベルの低いパソコンから流出する今の日本は、どう考えても異常だ。

簡単な線引きができるような単純な問題ではないが、時間の経過が解決してくれることは断じてありえないのだから、情報に関する法体系の一からの整備が必要だと考える。

久々の記事は、このネタで

時事通信(Yahoo!ニュース経由)によると、11日、東京地裁は、「1953年問題」の映画について激安DVD販売差止めを求めていたパラマウントの申し立てを却下した。至極当然の決定である。以前の記事で指摘しておいた通り、文化庁の「解釈」以前の妄想的読解は、裁判所の認めるところではなかった。

著作権者の利益は保護して然るべきであり、著作物の違法コピーをネットで流すなど論外である。だが、保護期間をいたずらに伸長せんとする昨今の傾向には賛同できない。ImpressWatch のやや古い記事だが、JASRAC会長で、作曲家の船村徹氏が、保護期間の70年への延長を訴えている。その中で氏は、
我々作家は一曲一曲魂を込めて、一生懸命作っている。これが命の綱。それをどんどん短くしろと言う。そんなバカな話はあるか?
と語っているが、勘違いも甚だしい。保護期間は、命の綱の切れた後の話だ。(音楽等について)現行の50年で短いという主張に、合理的根拠が示されたことはない。50年といえば、著作権継承者(要するに相続人)が代替わりしても不思議がない長さだ。保護期間内に認められる使用許諾権と経済的利益に固執するあまり、その著作物が忘れ去られていく、という現実に目を向けるべきではないか。

保護期間が切れた著作物は、パブリックドメイン状態になる。誰でも自由に使うことができる。音楽なら、人前で唄ってお捻りを貰っても、JASRACに追い回される虞がなくなる。そうすることで、人々の記憶から完全に消え去る前に、もういちど人口に膾炙することだってあり得るではないか。売上が見込めず絶版になり、どこを探しても手に入らなくなった著作物が、パブリックドメインになれば、経済的利益など求めず、純粋にその作品を愛する市井の無名士の手によって再び世に出るかもしれないではないか。

当初の裁判所決定という話題からはだいぶ外れたが、船村発言に代表される著作権の経済的側面のみに固執する見解は、却って著作物を一般市民から遠ざけているということを指摘したい。著作物を発表するのは何故か。人に知られたいからであろう。著作物は自ずから人に知られることを欲しているのだ。保護期間を伸ばし、著作権継承者の利益を計ることで得られる経済的利益と、囲い込みによって人に忘れられる損失とを、冷静に比較して見てもいいのではないか。
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