利光三津夫先生の想い出

律令学の大家にして古銭鑑定の第一人者としても活躍された利光三津夫先生が亡くなられた。私が大学院に進もうと決めたとき、法制史学者としての心得を示してくださった大恩人であり、大師匠とお呼び申し上げてきた方である。

先生の学問については、やがて法学研究や法制史研究に、学会の大先輩方の手になる追悼記事が発表されるだろうから、文字通り末弟である私がここで書き散らすことはしない。が、先生が定年で義塾を去られる間際まで、お側近くでその謦咳に接する幸運を得た私が先生から直に頂戴したお言葉、忘れられない想い出を1つだけ書いておこうと思う。

私が前任大に赴任して何年か後の学会でのことだった。前任大学は、まぁ[自主規制]なところで、思うように勉強も進まず、調べ物をしに東京に出るのも意の如くならないという閉塞状況の中、最初のやる気も次第に失せ、一縷の光明を求めて学会に足を運び、何も得られずに陰鬱な職場に戻る、そんなことが何度か続いた。

そんなあるとき、学会会場の休憩室で、短時間だが先生とお話しさせていただくことができた。私の状況を完全に理解してくださっている先生は、「人間いたるところ青山あるなんて思うな」と仰った。先生一流のデカダンで、有名な格言をひっくり返し、萎れている私に活を入れてくださったのだ。

私が曲がりなりにも法制史を専攻する研究者として今あるのは、多くの方々のご厚情のおかげだが、この学問を続けてこられたのは、利光先生のあのお言葉があったからだと思っている。元より浅学非才の身ではあるが、いつの日か、先生の学恩に報いることができるまで、この学問を続けていこう。

合掌

韜晦としてのマイブーム

先週半ば、ふと思い立って立川の某研究機関に行ったら旧館で○| ̄|_、やむなく一駅中央線に乗り、一橋の図書館で待望の史料と対面しました。中央線沿線に二ヶ所、しかも最寄り駅がすぐ隣という立地の機関にその史料は所蔵されていたために、朝から特急を使っての移動が無駄にならずにすみました。一橋ではコピーも許可になり、必要な箇所をコピーして持ち帰り、じっくり検討することが出来ました。そう、これで良かったのです。北海道には行けなかったけど・・・・(ToT)。

その日は地下鉄の遅れにもめげず、国立から竹橋に進出し(別に近衛師団にどうこうといっているわけではなく)、公文書館で追加の史料をゲット。最後に三田に廻って若干の用事を済ませ、楽しいデパ地下も秋葉も無視して甲府に戻りました。どうやら後期の勤労意欲を使い切ったようです。



『官僚たちの夏』にはまっている。惰性で大河を見た後、背筋を伸ばして官僚たち・・・、というパターンがすっかり確立した。城山作品に描かれる男たちの、凄すぎる生き様に惹かれるのだ。司馬の描く英傑たちよりも、城山の世界の政治家、官僚、経済人の方がより人間らしく、より凄味のある生き方をしたようにさえ感じる。美化しすぎという批判は当然にあるが、これはドラマなのだから、読ませる工夫があってしかるべきであり、それぞれの「道」なり「生き様」なりを貫く一徹さをデフォルメするのも、存分に「あり」だと思う。

今日の放送分で、主人公の風越(モデルは元通産次官の佐橋滋)が、国会の委員会審議で答弁に立ち、社会党と覚しき野党議員を怒鳴りつけるシーンに、溜飲の下がる思いがした。このドラマでは、55年体制確立から、怒濤の勢いで進む戦後日本の復興・発展のために命を削った官僚、政治家たちが英雄であり、汗をかかない、苦悩しないものは大部屋の切られ役でしかない。発展とそれに伴う歪みとは単純な二択で処理できない。視聴者が画面を通じて疑似体験する苦しさ、閉塞感は、熱血官僚と口先だけの議員というわかりやすい勧善懲悪を並べることで更に際だち、またガス抜きされる。

かつて官僚は、これほど熱かった。その官僚の知恵と力を極限まで引き出し、復興後の新生日本を描き出す政治家も熱かった。そう思わせるドラマである。翻って、いま官僚は熱くないのか。不祥事、私曲ばかりが喧伝されるが、国のために命を削るような熱い官僚が絶えてしまったとは思えない。駄目な政治家は新聞を見ればいくらでも上げられる。だが、優秀な官僚を超える知力と胆力の備わった政治家がいなければ、幾度与党が変わっても、国は良くならない。

55年体制が崩壊し、官僚批判を看板にした政権が発足する時、このドラマの問いかける意味は自ずから重い。

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しばらく見えなくなるかも

って、ここに書いてどうする(@^_^)ゞ

これは喜ぶべきことなのだ

後期の講義開始が2週間とちょっと先まで迫り、微妙に落ち着かない毎日です。この秋は、多分、未体験のお仕事シーズンで、自分の本来の勉強は、いつか発表できるレベルに達することを信じてひたすら準備するのが精一杯、と覚悟していました。ところが夏から始まった共同研究に手を染めてみると、やはり好きな時代の好きなテーマを勉強するのは楽しく、「研究室では『仕事』、『勉強』は自宅」という方針を無視し、研究室でもついつい、手に入れたばかりの史料を読み込んでいます(要するに締切りがあろうがなんだろうが「仕事」はしてない、の意)。

ところで、一門の学風というか、「史料のないこととは書けない」という大方針があり、ほんの数文字を書き足すためにも、原史料探しは欠かせません。非常に辛い作業ですが、見つかった時の充実感は何物にも代え難く、目録を繰っていく日々が続きます。そう、扱う時代が古いので、どうしても手で目録を繰り、所蔵機関に足を運んで史料と対面するというアナログ(アナクロ?)な手法は健在です。ですが、一方でデジタル技術が長足の進歩を遂げ、ユビキダス社会の片鱗が見える昨今では、法制史のような学問でも、ネット経由で検索しデジタル化された画像データを端末から取り出す、といった今様な手法も有効になりつつあります。

新旧どちらも、研究職なら使えなければならない手法で、先日も、ある史料を探してネットを彷徨い、所蔵機関の当たりを付けてから勤務先図書館のリファレンスに相談を持って行きました。成果を文章にまとめる場合、最大で1行加わるかどうか、という程度の事柄を確認するため、ある史料を閲覧したいのです。私が見つけた所蔵機関は北海道大学。

「これは後期が始まる前、かつ出張旅費が枯渇する前に飛んでしまおう。閲覧は10分もあれば終わるから、あとは楽しく観光だ\(^o^)/」

という企みを秘めたまま調査を頼んだのが金曜日。で、今日早速答えが。

「貴重書だから借用は無理でしたが、ここから一番近いところだと、中央線で1時間弱のところにありました。行くとすぐに見られるそうですよ(^_^) 」

うちのライブラリアンが優秀すぎるということを忘れていました。_| ̄|○
『風のガーデン』の風景を見たかったなぁ・・・

往復(と観光)で数日使うつもりが空いてしまったので、大人しく「仕事」します。

名文には違いないが

いつの日か、弔辞ででも良いから「達意の文章家」なんて言われてみたい。普段から悪文しか書かない(書けない)腐儒でも、文化系を専攻する以上は美しい文章、「名文」に憧れる。何をもって「名文」と定義するか、簡単ではないが、形式、内容、更に語調の美しい文章は、名文と呼んでも良いような気がする。が、これを書こうと思うと、とてつもなく難しい。

毎朝欠かさずに読んでいる新聞。時勢の如からしむるところか、汚い文章が増え続けているように感じるが、やはり当世の文章家が集まるのもやはり新聞だ。地方の小さな新聞社にも「主」のような文章家がいて、キラリと光る文章が紙面を引き締めていたりすると、心嬉しくなるし、赤を入れたくなるような迷文を載せて恥じない大新聞もある。

閑話休題。今朝の読売の一面、「編輯手帳」は、やはり良い文章だった。先代の失火で居町の人々に迷惑を掛けたと、大戸を半開きにして謹慎の意を表し続けた味噌屋さんの話が冒頭にくる。筆が熱を帯び、社保庁、そして農水のデタラメをちくりと刺し、農水幹部の駆け込み天下りを非難する。

幅広い知識に裏打ちされ、ごく僅かな字数で存分に意のあるところを伝えるのだから、立派に名文だ。だがここで筆が滑った。
味噌屋さんを見習えとは言わないが、謹慎の心はどこへやら、民主党政権が発足する前に駆け込みで天下りとは、もらい火で焼け落ちた自民党もなめられたものである
これはいただけない。自民も、出番直前の民主も、ここまでなめられたら、覚悟を決めるのが当然だ。だが「もらい火」とは何事か。恥を知らない官僚の愚行を「火事場泥棒」とでも言うならまだわかるが、もらい火では、自民に責任なきがごとしではないか。

確かに55年体制にとどめを刺したのは、公僕という言葉を知らない一部の不心得者であるし、それを火事で表現するのも理解できる。だが、一部の「店子」が危機意識のかけらもなく火遊びをしていることを「大家」が知らなかったとはいえまい。そしてそんな店子の手の届くところに、大好物の強燃性燃料を起き続けたのは大家なのだから、失火の責任は大家にもある。断じてもらい火などではない。

家作のすべてを失った自民大家の末路や如何に。ここで自身の失火という厳粛な事実を見つめ、しっかり反省しないと、もらい火で焼け出され呻吟している国民は許してくれない。自民の家作がなくなったから、心太式に大家になる民主も、火の元には今以上に細心の注意がいる。熾火が燃え上がるのは簡単だからいちいち消して回りたいかもしれないが、消してはいけない火にまで水を浴びせてしまっては、明日の煮炊きにも困ることになろう。飯も炊けない長屋になぞ、誰が住むものか。
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