珍しい裁判

法学の講義で、裁判官の身分に関する「裁判」といった場合、「弾劾裁判」の説明をする。具体的な事例に触れつつ裁判官の身分保障が厚いことを述べ、司法権の独立の歴史へと話しを進めると、一、二回分の講義時間では足りなくなることもよくある。
 

だが、弾劾手続きによる資格剥奪には至らない、免官、懲戒手続の説明は、ほとんどしない、というか、恐らく一度か二度、言葉を説明したことがあるかないか、といったところだろう。この手続、「分限裁判」といい、裁判官分限法という法律に定められている。
 

読売にこんな記事が出ていた。

宇都宮地裁所長が所属裁判官審尋で質問、懲戒要求の動き
 

記事によると、

問題となったのは、同県日光市のホテルの破産事件で、今年2月21日に地裁で開かれた審尋。県弁護士会が出席した弁護士に聞いたところ、裁判官3人の合議体で行われた審尋に、園尾所長も「書記官の補助者」として出席し、裁判長の許可を得て債務者の資産などを質問したという。

 

平賀書簡事件のように、結論に関わる発言を行ったのかどうかは判然としないが、所属長である裁判所の長が担当でもないのに同席していたら、本来の判事はどう感じたのだろうか。
 

当該所長は

本件の破産事件が珍しいので、個人的な研究心から立ち会った

とコメントしたようだが、やはり李下に冠を正してはいけない。
 

この事件、珍しい裁判に発展する可能性があり、高裁の判断が待たれるが、裁判官分限法に定める懲戒は、「戒告又は一万円以下の過料」である。「刑罰の目的」とはなんなのか、余計な方向に思考が曲っていきそうだ。

二分残ったのだろうか

イザの記事によると、「村八分」を受けた住民が地区長らを相手取って訴えた裁判の控訴審で、一審に続き住民側が勝訴した。

判決によると、原告らは平成16年、集落で計画されていた「イワナつかみ取り大会」に、多忙などを理由に不参加を表明。地区長らは「集落のすべての権利を放棄し、脱退したものとする」と通告。ごみ集積場の使用や山菜採取のための入山を禁止するなどした。
というが、その地域に居住する限り、「集落から脱退」するなどということが現実的に可能かどうか、考えるまでもなさそうだ。
地区長側は「集落の政策をめぐる対立から11世帯が脱退したもので、村八分のように一方的に絶交の通告をしたわけではない」と主張していた。
が、判決は、
「村八分と呼ぶかどうかにかかわらず違法」
との判断を示した。極めて妥当な判決である。

ここで、私としては「二分」が残ったかどうかが非常に気になる。もしも残っていなかったのなら、「村八分」よりも悪質な行為と評価せざるを得ない。

政治力学

教科書問題が囂しい。

集団自決という史上稀に見る悲劇が軍の指示によるものか否か、私には即断するだけの材料がないが、戦陣訓を刷り込まれた職業軍人とは違う民間人が、集団心理の作用があったとしても、「集団で」自ら命を絶つという決断をなし得たか。

対する軍、特に陸軍は、他国には見られない特殊な世界観を持っていた。近代戦争では、兵力の1/3が失われると「全滅」と呼ばれる。前線で戦闘に加わる兵力は、全軍の1/3が通例で、他の2/3は兵站、通信、医療などの後方支援部隊を構成する。それくらい後方がいないと、実際に戦闘を継続することはできない。ところが日本軍は、烹炊兵も衛生兵も残らず倒れて「玉砕」と称した。この発想に照らせば、「軍に協力し行動をともにした民間人」の運命はについては、多言を要しないであろう。

ただ、この論法を採ると、「軍」という組織は見事に一体性を保ち、人間性のかけらもない集団ということになる。まさか、一線で兵や民間人と接していた尉官、佐官クラスに人格者がひとりもいなかった、ということはなかろう。現実に沖縄戦で、自殺しようとする民間人を少しでも安全な場所に逃がそうとした指揮官が存在したことが知られている。極限状態まで追い詰められた人間の行動を、白か黒かのいずれか一方に決めようというのが間違っている。

さて、このエントリの主題は、軍事史研究者としての私の見解を表明することではない。

いま問題になっている教科書の検定結果が発表されたのは今年の3月。夏前には沖縄で反対の声が巻き起こり、時の安倍首相も6月の「慰霊の日」に、沖縄で記者の質問に答えている。

それがここにきて、俄に記述の見直しに進みそうな雲行きになった。そこには史実を発見しようという学問的視座はなく、徹頭徹尾悪の軍、検定で心情を傷つけられた沖縄の人々というシンプルな書き割りの舞台で、次の選挙を心配する政府与党の姿がセリ上がってきただけである。

セリを上げた野党、民主党は、まだ板の上に出姿を見せない。板に出て最初の見得で、屋号を連呼してもらえるか、「ダイコン!」と罵られるか。それによって彼らが名代になれるか名代下のまま終わるかが別れるような気がする。

今の二枚目に匹敵する名代が次に控えるような二大政党制なら、いい世の中になるのだが。
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