伊福部昭

現代日本を代表する作曲界の長老、伊福部昭氏が亡くなった。

このブログで再三取り上げている信時潔とは好対照の、恐らくは信時が好まなかったであろうタイプの音楽を書き続け、91歳の生涯を終えられた。いま、この報に接し、書架から氏の代表作の一つ、『交響譚詩』の総譜を取り出してきた。音を辿りながらページをめくる。とても難しい。冒頭からまず、拍節がつかめない。強烈な和音が鳴り響き、不安定なリズムがいつの間にか安定する。氏が追求してやまなかった、日本的でしかも原始的な音響世界が緻密に計算された技法の上に広がっている。

氏は、北海道帝大農学部を卒業し、戦前から戦中にかけて、道内で林業技師として働きながら、ほぼ独学で作曲技法を修めた。戦後は、東京音楽学校(芸大の前身)、東京音大で後身の育成と作曲とに励み、数多くの作品を世に送っている。

クラシックだけでなく、映画音楽の世界にも無数の名曲を残した。伊福部昭のオーケストラ曲やピアノ曲を聴いたことがなくても、『ゴジラ』のテーマなら誰でも知っているだろう。

音楽教育の分野では、芥川也寸志、石井真木など数多くの大作曲家を育てた。また著書『管絃楽法』は1953年初版刊行だが、今日でも定番といわれている。

今日、帰宅したら、『交響譚詩』と『日本組曲』を聴くことにしよう。

合掌。

信時潔「鎮魂頌」

新聞記事によると、参院予算委員会で安部官房長官が、
国のために殉じた方々のために手を合わせるのは当然のことだ。靖国神社にお参りすることが、(戦没者の)冥福をお祈りすることになる
と語った。これに先立ち、麻生外相も靖国参拝に前向きな発現をし、一部野党が騒いでいる。

数年前、靖国神社遊就館で『靖国神社の歌』(NKCD-3070)というCDを買った。昨年『海ゆかばのすべて』をアップした際には失念していたのだが、このディスクに、信時潔の「鎮魂頌」という曲が収録されている。戦後の世情荒廃を嘆いた折口信夫が詞を書き、昭和34年、靖国神社創立九十年祭に際し信時に作曲を委嘱した。ディスクには、團伊玖磨指揮、東京芸大教授秋本雅一郎独唱のオーケストラ版と、團のピアノ伴奏、二期会合唱団による混声合唱版が収録されている。

この曲は、靖国神社委嘱作品であるから、当然、神道的内容を持つものであるが、詞からも、曲からも、純粋に戦没者を慰霊しようという作者の精神を感じ取ることができる。
現し世の数の苦しみ たたかひにますものあらめや
という歌詞が、軍国主義日本の消長を見届けた文人の筆によって書かれたことの意義は大きい。

自然の美を称え、死者を追慕する心を柔らかな和語で綴った折口の詞に、信時は、技巧を廃し、力強さと繊細さを併せ持った美しい旋律を与えた。雄渾という評価は、信時の作品にこそふさわしい。

現在この曲は、靖国神社の例大祭で演奏される。また宮城県護国神社のHPで、楽譜の閲覧と混声合唱版の視聴が可能となっている。

故人を悼む気持ちは誰にでもあろう。ましてや、国という抗い難い存在のために非命に倒れた人を追悼するに、なんの憚りがあろうか。追悼という純粋に精神的行動の前に、政治も左右どちらの思想も無用である。

もっとも、私は靖国神社そのものには良い感情は持っていない。それは靖国が、我が会津を蹂躙した西軍戦没者の追悼施設「東京招魂社」に発するからである。

今年最後?の音楽活動

定期演奏会の一月くらい前のことだったか、ぺルプで参加してくれるOG(元主席クラリネット奏者)が来室した。付き合っていたOB(元主席トランペット奏者)と挙式の運びとなった、との報告である。実に目出度い。で、12月17日の披露宴で、新郎と仲間たちが演奏をしたいので、クラシックを1曲、彼らの編成に合うように編曲してほしい、と頼まれた。昨年も一度、OGの頼みを受け、祝儀として編曲を書いたことがある。このときは苦手なポップスのピアノ譜を渡され、25人編成の吹奏楽を書くのに何ヶ月もかかったが、いずれにせよ断る理由はない。しかし困ったことに、曲を決めていないという。何度かやりとりしたが、結局、曲のチョイスまでこちらですることになってしまった。

編成は、TP 4、Hn 1、TB 4、Tu 1に打楽器1という、往年のフィリップジョーンズ・ブラスアンサンブルさながら。メンバーの何人かはよく知っているOBで、技量はセミプロ以上。ならば、と、目出度さを前面に押し出して「フィガロの結婚」序曲を編曲し始め、八割方できたところで悩んでしまった。難しすぎる。編成の都合で中低音の運動性が低いため、細かい音の動きを書き込めないのである。書くには書いたが、これを吹こうと思ったら、1ヶ月以上は練習が必要だろう。だが、そんな時間はない。曲を変えなければダメか、と思い定めたのが先週の末。

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定期演奏会終了

「無事」とはいえないが、なんとか終ってくれた。

今回はロシアの音楽を特集し、カバレフスキー、リムスキー・コルサコフ、チャイコフスキーの大曲ばかり集めたので、部員たちの負担は相当だったと思う。良くこなした者もいれば、全然消化できなかった者もいる。でも、メインの『1812年』では、微妙なズレに気を取られて振り損ね、危うく止まりそうになって肝を冷やした。こんな体験は生まれて初めて。本番のステージはやはり恐ろしい。なんとか立て直し、エンディング近くではSE用にセットしたシンセ2台と効果音用パーカッションが見事なコラボをみせてくれて、なんとか終りまで駆け抜けることができた。

閉会後は、OG会主催の夕食会。そこで大幹部のA嬢から「来春挙式」との目出度い報告を聞き、疲れが吹き飛ぶ思い。祝儀を弾まなければ。ということは特別補正予算を立てるしかないな。

演奏会には遠方から駆けつけてくれた卒業生も多く、花束やら土産の品々やら、沢山の頂き物が車の後部座席以降を埋めつくしている。有り難いこと、この上なし。

最後の練習日

明日は吹奏楽部の定期演奏会。

ここ5年くらい、毎年、編曲と指揮をしているが、年々気苦労が大きくなっているような気がする。私の要求水準が上がっているのか、奏者のレベルが上がらないのか、いずれにしても大変憂鬱な数週間を過ごし、明日がとうとう本番となった。

今年の曲も大変に難しく書き上げた。例年、メンバーは泣きながら練習し、土壇場(この表現は史実ではなく慣用で)でなんとか出来てしまっていたのだが、今年はどうだろうか。

楽譜の最終チェックも終え、明日使う器材の調達も完了した。でもまだ満足行く演奏には至らない。

大成功とはいかなくても、せめて無事に終わるよう、祈って下さい>各位

学校教育と吹奏楽

石川県吹奏楽連盟他主催の『吹奏楽の祭典』を聴きに行った。知り合いのお嬢さんが参加するということで、入場券を頂き、OGのS嬢とともに、数年前にオープンしたシューボックス型ホール*1に向かう。入口で200円払ってプログラムを買い、今回の出場団体に関する情報を仕入れるが、開場15分で平土間も2階正面席もいっぱい。止むなく3階の側面席を確保*2

出場するのは、吹奏楽コンクール北陸大会で金賞を受賞した中高4校ずつと、中学生の選抜バンド。最初の中学校がステージに登場した時点で、既に我が目を疑う。そしてプログラムを見直す。出場するのはすべて公立の学校。なのにステージ上には、私の月給の数ヶ月分もしそうな高価な楽器がずらり。これだけで、石川県というところの文化に対する意気込みを感じる*3

演奏は、水際立って、それは見事なもの。まぁ、私はコンクールが好きじゃないので、審査員的な批評は慎むが、良くトレーニングされたメンバーが、単なる軽業にとどまらない音楽的な内容を目指していることが伝わってくる、一言でいって素晴らしい演奏だった。

件のお嬢さんは3番目の出場団体。最初の学校と、この3番目の学校が、先日行われた全国大会に出場した。他の2校は、俗に言う「ダメ金」だったのだが、その差は歴然としている。音が全然違うのだ。他の2校は、上手が操る楽器の音が生で飛んで来てしまうのに対し、全国出場バンドの音は、バンドとしての方向性を持った、良くブレンドされた音。指導にあたられた先生のご努力や如何ばかりか、と頭が下がる思い。もちろん、お嬢さんのいる学校の演奏も大変に素晴らしい*4

続けて高等学校の演奏。3つ年上だというだけで、こんなに大人びた演奏になるのかと、また驚く。ここでは、全国大会の常連である工業高校の演奏を楽しみにしていた。予想以上に凄い。続いて登場したのは、今年全国に初出場した普通科の高校。これは全然違うカラーだが、やはり凄い。人口100万の県で、こんなに凄い吹奏楽部を擁する学校がごろごろしている。この土地は一体、どういうところなのだろうか。

それにしても、出場8団体のすべてに共通するのだが、男子生徒が殆どいない。最も重たいチューバを軽々と操る、決して大柄とはいえない女子生徒を何人も見て、認識が変わる。だが、これが「Swing Girls」効果だとしたら、ちょっと嫌かも*5

最後に中学生選抜バンドの演奏。これはさすがに練習時間が少ないせいで纏まりを欠く。でも最後のプログラム「ディスコ・キッド」は、巧拙の問題抜きで楽しかった。1977年の課題曲。私も、田舎の中学校で、自分たちの実力を遥かに越えるこの曲に挑み、とてもじゃないが人様に聴かせられるような演奏はできなかったことを思い出す。でもこの土地の中学生たちは、立ったり座ったり、演奏しながら楽器を振ったり、軽々と、しかも実に楽しそうに吹きこなしている。この実力の差はどこから来るのか。

今日のタイトル「学校教育と吹奏楽」。私はこんなことを考えていない、という程度の意味。

  • *1 : このホールは大きさが中途半端で、大人数の楽団を入れるのはいかがかと思う。
  • *2 : このホールは音圧分布に難があり、1階屋根無し部分以外はどこに座っても同じ。
  • *3 : 私の出身県では、こんな楽器見たことがない。
  • *4 : 曲の解釈については賛否が分かれそうだが。
  • *5 : 演奏はいずれも素晴らしいものばかりで、流行を追っているだけでないことは明らかだが、そうすると、真面目に楽器に取り組もうという男子生徒があまりに少ないことが寂しい。
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