蔵書

湯河原に行ってきた。

曽村保信先生旧蔵書の整理のためだが、前回お宅にお邪魔したのは二年以上も前で、奥様にお目にかかるのも約一年半ぶりとなってしまったが、先生の御在世中と少しも変わらず、温かく迎えていただいた。

すでにかなりの量の本を、私を始め幾人かの研究者がお預かりしているが、先生がお使いになるはずだった真新しい書斎では、まだ三〇本以上の本棚を埋め尽くす書籍が、静かに時を刻んでいる。隣の物置には、相当数の段ボール箱の中に、書斎に入りきらなかった本が眠っている。貴重な研究書群をまとめて引き取ってもらえる組織、機関を検討するという目的もあり、同僚O師とともに、改めて先生の書架を眺めた。

先生の学問的興味は非常に広範囲に及んでいるが、特に、中国政治に関しては、神話の時代から現代の共産党政治まで、まさに無数の書籍が並んでいる。さながら、中国研究センターの様相だ。その周辺に、中国以外の政治、海軍を主とする軍事関連の本が、再び開かれる日を待っている。

この膨大な蔵書は、碩学と呼ぶにふさわしい先生の頭脳そのものだ。個々の本が脳細胞で、それを結びつける哲学がシナプスにあたる。凡庸な私の頭ではその全貌を思い描くことすらできない、小宇宙がそこにあった。

前任大学在職中から、先生には大変に可愛がっていただいた。江戸の研究書を中心に、多くの文献を頂戴した。そして今日、遺品となってしまった本の管理に関わらせていただけるのは、実にありがたい。ただ、もっともっと、親しくお教えを賜りたかったと、穏やかな春の海を眺めつつ、そう思った。

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