岩城宏之氏逝去

現代日本を代表する指揮者の一人、岩城宏之氏が亡くなった。

月に一度以上のコンサート通いが当たり前だった私の学生時代、綺羅星の如き外国人指揮者のステージに引けを取らない、円熟した音楽を聴かせてくれた戦中派の大指揮者たちがいた。森正(1921-1987)、渡邉暁雄(1919-1990)、山田一雄(1912-1991)、そして朝比奈隆(1908-2001)・・・。彼らが鬼籍に入り、後に続く世代の小澤征爾(1935-)、若杉弘(1935-)らとともに、日本のクラシック音楽を世界水準に引き上げた偉大な巨匠の訃報に、しばし言葉を失った。

当地、金沢に赴任したころ、我が国初の本格的室内管弦楽団「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)」が呱々の声を上げた。その生みの親が岩城氏であり、まことに幸いなことに、何度もそのエネルギッシュな指揮ぶりを見る機会に恵まれた。

もっとも印象に残ったのは、ヘルマン・プライ(バリトン)とOEKが共演した「冬の旅」全曲の演奏だ。プライ氏の体調不良のため、休憩なしで演奏されたのだが、ピアノの伴奏とは全く違うオーケストラのつややかな響きと、プライ氏の圧倒的な表現力、その両者を見事に調和させたのが岩城氏のタクトだった。

岩城氏は「初演魔」との異名を取る人物で、現代作曲家の作品を積極的に取り上げた。「一度も演奏されることのない名曲」がどれほどあるのか、想像もつかないが、岩城氏は、こうした作品を掘り起こし、あるいは自らが作曲家に委嘱して、「現代のクラシック音楽」を世に送り続けた。

話が前後するが、岩城氏とプライ氏は仲の良い友人同士だった。厳しいマネージャーでもある奥方にタバコを禁止されていたプライ氏は、こっそり岩城氏の楽屋を尋ね、タバコをねだったという。今ごろ岩城氏は、一足先に逝ったプライ氏と天国で再会し、タバコをくゆらせながら次のコンサートの相談をしていることだろう。合掌

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