気になっていた判決

二週間ちょっと前、久し振りに金沢に里帰りし、古巣の吹奏楽部で棒を振った。二日間指導して、甲府に帰り着いたら、恐らく最前列のあいつあたりから貰ったウィルスが悪さを始めて、以来ずっと喉痛、発熱を繰り返した。当然、ただでさえ脆いガラスの勤労意欲は粉々。あいつには、音符3割増くらいの礼をしてやろう。

熱で動きが悪かったあいだ、ボツネタで気になる判決を紹介していた。これだけではさっぱり分からず、判例を調べに行く気力もなく、延び延びになっていたのだが、たまたま親族法の先生に「こんな判決ご存じですか」と質問したところ、ご親切に、家裁月報と民商法雑誌のコピーを届けて下さり、解説までして頂けた。

親が亡くなり、たった一人の相続人は、借金取りから逃れるため、相続を放棄した。ところが清算が終わったところ、財産が残ったので、特別縁故者としてこれを取得した。という事例。相続人は放棄することにより、限定承認した場合の、そりゃあ面倒くさい手続きをパスし、コストを負担することなく財産の取得が出来てしまったというのだ。

原審の判断が分からないが、禁反言か、特別縁故者の範囲を限定的に解釈したか、どちらかだろう。それを高裁がひっくり返し、他に相続人や特別縁故者がいなかったため、そのまま確定した。

一旦相続を放棄したものが、後から別な名目で手をあげるのは、なんとなく釈然としないし、特別縁故者は、相続人がいない場合、被相続人との関係において、財産を受けるにふさわしいもの、例えば内妻、未認知の子、被相続人の最後を世話した家政婦などが考えられる。そもそも第一順位の法廷相続人だったものが、これにあたるのか、と素朴に考えてしまう。

だが、この相続人は、どうやら限定承認の手間を惜しみ、負担を相続財産管理人に押し付け、利益だけをもぎ取ろうという悪辣な発想から放棄したものではなさそうだ。被相続人の死後、借金取りが現れたことが決定書からわかる。想像の域を出ないが、借金取りが、脅迫的言辞を用い、頻回相続財産からの弁済を要求したら、平たく言えば、その筋っぽい借金取りが相続人に、「親の借金を返せ」と、たびたび脅した、というような場合だったら、どうだろうか。

専ら借金取りの脅迫的取り立てから逃れるためで、限定承認を回避するという脱法行為を企んだものではなく、他の相続人はなく、他人であれば特別縁故者となるような、被相続人との関係のある唯一の人物が、相続放棄と特別縁故者としての財産取得を行ったとしたら、禁反言でこれを排斥するより、高裁決定のように申立を認めるほうが、遥かに血が通ったものとは言えないだろうか。

何十年かぶりに民事系の判例と評釈を読んで、こんなふうに考えた。

昨夜から会津に戻っています。Type-Uの極小モニターで書いているので、いつも以上に誤変換があるかも、です。
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